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伊藤餅麿の2010年師走焦燥記
12月というのは多くの人間を孤独に陥れる季節である。
とりわけ男の場合、婦女子よりもその孤独感に拍車がかかって実に現実感が増すものである。
例えば僕のような秋の終りに平気で盆菓子を喰らうような薄情者は、クリスマスであったり大晦日であっても別段特別の思い入れもなく、というよりは思い入れがあったとしてもその思いを表現できる舞台があるわけではないので他者から見れば僕の思いを知るよしもないわけであって、したがってこの場合僕の思いは永久に人に知られることがないわけであり、ということはつまり他人から見れば僕などは何の思いも抱かずに生きている盆菓子野朗ということになり、この場合僕の気持ちとは裏腹に蓮麿は孤独な12月を過ごしている男、ということになりかねないのであるから実に口惜しい限りである。
数年前の大晦日の夜、僕は不意にケンタッキーフライドチキンというアメリカ人がこしらえたレシピを忠実に再現した日本のチェーン店で販売しているチキンを食いたくなった。しかし残念なことにすでに閉店時刻を過ぎたであろう時間であったことからケンタッキーフライドチキンを諦めざるを得なく、しかしどうしても食いたい気持ちが強かった為に僕はケンタッキーを妥協してコンビニエンスストアーのレジスター付近でショット販売しているフライドチキンに目星をつけたのである。ケンタッキーというブランドではないが列記としたフライドチキンであり、似たようなものではないか。この時間に食えるのなら類似品でもかまわないではないか。という妥協を重ねた結果の納得であった。そんで寒い夜中の歩道をスキップしながらコンビニに辿り着いた僕を迎えたのは年末の孤独感だったのである。というのはコンビニに辿り着くまで僕という男は本日が大晦日だったという現実をすっかり忘れていたのであるからその孤独感も尋常を越えており、洟を垂らして「フライドチキンひとつ」とレジスターの脇でこっそり呟く僕の背中を長蛇の列が見守っている。「このくそ寒い深夜にこいつらはなんで並んでいやがるのだ。阿呆かしらん」と当初思っていた僕だったが阿呆は僕であった。長蛇の列は初詣の参拝客であったのである。少し前のクリスマスには神社を裏切ってキリストを拝んでいたくせに、舌の根も乾かぬうちに初詣とは神社に対する冒涜行為ではないか、否、背徳行為ではないか。などと僻み根性を両目で表現して睨みつけてはみたがいささか虚しさが喉の根本ですっぱく感じた僕は、尻を閉じ合わせてチキンをひとつ抱えて無神論者の集団を抜け出たのである。きゅん。
かつての僕の孤独は今も受け継がれている。別段頼んだわけではないが誰かが勝手に受け継いでいやがるのである。誰かが勝手に受け継いでくれたお陰で僕はようやく孤独から解放されたのだ、と言えなくも無いのであり、つまり大手を振るってついでにヒップを揺すって初詣の長蛇に加わって「やっぱこの次期、ケンタッキーよりも餅だよね。あはは」などと言い放っても結構様になるはずである。しかしである。未だ孤独に喘ぐかつての僕の分身達を裏切って餅をつくのも少し躊躇われ、何となく罪悪感の如きが胃袋の中でじわりと滲み出るのであり、いっそのこと孤独に至った要因、根本の原因、つまり不況だとか無職だとか童貞だとか、そうしたネガティヴな諸問題を一旦白紙にして、みんなで一先ず踊ろうよ、手に手を取り合って笑顔ではしゃごうよ、というような、まぁ何の解決にもならんが、なんちゅうかラテン的な感じで12月は行っちゃおうよ、ちゅう感じの風習というかそんなのが定着した陽気な文化の国であったらいいのに、などと思うあまりに現実との落差を思い知るに至ってやり場の無い虚しさがやがて怒りに変わり、怒りの矛先が民主党に向う昨今であるが、とりあえずくよくよ考えても餅はつかねば伸びない、てんで僕はこれから餅をつき続けようと決意するのである。びよん。
今年は色々なことがあった。海老蔵が殴られたのを聞いてまた町蔵が殴られたのかと思った。その他色々なことがあったが色々あった事柄を常にメモをしていたわけではないのでほとんど覚えていない有様であるが、色々あったことだけは事実である。反省もあれば喜びもあり無念もあれば恍惚もあった。ついでに快楽もあって少々の堕落もあった。毎年のことながら何か新しいことを始めたいなぁと思いつつ特段新たな出会いは無く、正直に言うと10月半ば過ぎから新しいことをこっそり諦めて、11月にはすでに「来年こそは何か新しいことをやりたいなぁ」などと先延ばしをした。一年というのは長く感ずる時もあれば一瞬で過ぎる時もある。どちらにせよ時間というやつは無視をしても過ぎてゆく。歳取りたくないな、などとわがままを言っても必ず老人になって少ない年金でお粥をおかわりするのである。せめて僕は豆を食いたい。そら豆がいい。そら豆を殻ごと油で揚げたものを花豆という。花豆というのはビールに良くあう。しかしながら僕はビールを飲むとしゃっくりが出る体質なのでビールはせいぜい1、2杯程度しか飲めぬ虚弱な男である。そうだ、来年はビールを飲もう。例えしゃっくりが出ようとも僕は負けない。そうして花豆を頬張り、くちゃくちゃいいながら居酒屋でビールをおかわりし続けるのである。そして来年中にはビールと花豆が主食になり、朝食には花豆のビール煮、昼食には花豆のビール丼、夕食には花豆のビールパスタなどを食うのである。そして朝から酔っ払い、挙句に飲酒運転などで逮捕され、監獄にぶち込まれて看守に虐待を受け、妻に見放された揚句世の中のことをすべて信じられなくなり、人間不信になった頃ようやく釈放されるのである。実に馬鹿な男だ。それは僕である。年末になんということを考えているのであろう。あの時の僕の孤独感というのは12月のせいではないような気がする。つまり僕という男の思考回路に問題があると思ふのである。なぜにそら豆を主食にした挙句監獄に入らねばならぬのか。年末だというのに実に陰気な話ではないか。そうだ、明るいことを考えよう。そうだ、お笑いでもやってみるか。漫談がいい。芸名はそうだ、横山スクイズにしよう。そしてデビュウして芸能人になって毎夜呑み歩いて、銀座で花豆を食おう。ってまた花豆が出たあたりで僕の2010年、平成22年が終わろうとしていやがる。まったく締まりの悪い終わり方ではないか。こんな締めくくりはいやん。なんか派手に終わったるかな。何か派手なことを考えよう。うぬぬって両手と両足を組んで尻に力を込めて考えた途端、屁。そこに妻。笑う僕。笑わぬ妻。ごまかす僕。怒る妻。追う僕。去る妻。走る僕。歩く妻。叫ぶ僕。聞かぬ妻。残る匂い。一人スクイズ。かしこ。

2010年、人生、あはん。はこれにて終了。
私はこれから米屋に行かねばなりません。なぜならもち米を買わねばならぬからです。なぜにもち米を買うかというと餅をついて餅を食うためです。なぜに餅を食うかというと正月がくるからです。なぜに正月だからといって餅を食わねばならぬのか。これ以上考えるのはよしましょう。それが正月というものです。そう、人間ちゅうのは無欲にならねばならぬ時があるのです。正月は餅。ただそのためだけに無心に餅をつくのです。僕は餅こそが世界に平和をもたらすものだと思ふのです。たぶん。
2011年にお会いしましょう。
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by hasumaro | 2010-12-29 01:49 | エッセイ



爆発する愛と欲の言葉達
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