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俗・源氏物語
40年の人生を生き長らえてきた僕という男は、これまでに7回の引越を経験してきた。札幌から東京の中野区へと移り住み短期間で札幌へと舞い戻り、それから札幌市内で5回の引越を繰り返したのであるが、引越をするたびに「もう引越など二度としない」と心に誓うくらい引越しというのがいやんになるのだけれども、そうした気持ちを抱いたはずの男がなして7回も引越をする羽目になったのか。それはひとえに僕という男の性癖に関係するとこっそり思っているのである。
性癖というのはセックスやSMのような快楽のことばかりではなくて、たとえば僕は本を読むとき長椅子にごろんして両の足をカエルの足のように開いて仰向けにならないと読書に集中できない。他者から見れば阿呆のような格好であるが僕にとっては阿呆ではなく、読書をする上で絶対に必要なシチュエーションなのである。女体を緊縛しなければ性器が隆起しない人と本質的な意味においては差異がないのである。
このようなことから考えた場合僕の引越癖の由来ともいえる性癖は、たぶん外食にあると思ふ。世界の多くの人々は食材というのを買う時に数日先のことを視野に入れた上で食材選びをするだろう。こんにゃくを買った場合、初日はおでんにして翌日は豚汁の具にして最終的には醤油で炒める、そうするとこんにゃくだけで三日も喰らうことができるではないか。このような経済観念というのが多くの人々の脳味噌に育ったおかげで世界の経済は好転しうるのである。また日本国の経済も著しい発展を遂げたのであろう、と思うのだけれども、こんにゃくなど三日も食いたいだろうか。「食いたくねぇよ」というのが本音ではないのかしらん、と僕は世界を疑っている。僕は食いたくない。三日も。そうした本音に忠実に従った結果、買い溜めという行為がどうも浅ましく思え、冷蔵庫がびっしりになると言い知れぬ焦燥感に苛まれるような男に育ってしまったのである。三日先、否、一週間先の食事が決まっている人生などつまらない、という実に厄介な性癖が育ち、常に家人及び家計を困らせているのである。
でも僕は外食が好き。外食は食材を自分で揃えなくて済むし、何よりも三日もこんにゃく食わなくてもいいしね。外食ならリストランテもあるしバーもあるし居酒屋もあるし、和食洋食中華ってなまらたくさんメニューがあるしね。うほほ。(マンモス)うれP。出来るなら毎夜あちこちの外食屋を転々としたい。しかし同時にそんなことしたらきっと破産する。僕の中にも少ない経済観念というやつがあるのだろうか、破産という恐怖心がいつしか強迫観念になって、「毎日はやばいから週に1度? いや月に1度? どう?」なんつう迷いが生じて、結局その間食い物がないと死ぬし、死ぬのは嫌なので、妥協して食材を買いに行くのだけれども、つまり、引越の際、部屋探しから移転の手続きなど実に面倒臭いことが続いて、さらにはとってもお金が掛かることから引越自体を後悔するくせに、数年経過すると当時の後悔を忘れてまた引越したくなる、やはりこの先何年も同じところに済むのは飽きるなぁ、という思いと、外食したら破産するからびびってこんにゃくを買ってはみたものの三日も食いたくないなぁ、という思いは双子以上にそっくりなのである。外食をする時の僕と引越を決めた時の僕には同様のエクスタシーがあるのである。そうして自身のエクスタシーに忠実に従った結果、僕はまた破産に近づいたのである。というようなことをこの度の7回目の引越の際に気づいたのである。あはん。
借家というのは外食に似ている。つまり責任がない。食いたくも無い食材が冷蔵庫で眠っていたらそのうち腐るが、外食は関係ない。家だって古くなったり臭くなったりしたら引っ越せばいいし。責任というのは食材を買ったら腐らずに喰らうこと、古くなっても臭くしないで住み続けることである。要するに僕という男は自身の性癖に忠実なあまり責任というのを果たしたことがない、ということが前途した文章から諸君らにわかってもらえたと思ふが、代の男がこの世に生れ落ちて、一度も責任を果たさず死んだら生まれた価値も生きた価値もないではないか、というような苦言を僕に呈したい人もあろう。そら僕も思ふ。武士の時代であれば僕は武士になれないと思ふし、武士の時代でなくて良かったと思ふ。でも武士になれなくてもいいから僕もいくらかの責任を果たして、わずかでも自身の価値というのを自らの人生に刻みたいな、と思ふ。まずはなんちゅうか、いきなりでかい責任はストレスに感ずるので、身近な、あわよくば簡単な責任から果たしてみようかな、と僕は思った。つまり源氏パイである。源氏パイ、というのを当然諸君らも知っていると思うが、そう、日本を代表するスイーツである。僕は源氏パイが好きである。昔、僕が「いいな」と思った歌手や曲は必ず売れる、というような錯覚を抱いたことがあるが、源氏パイを初めて食った時も「売れる」と思った。そしてこれは今でも売れている。錯覚ではなく確信であったことを物語っているのである。もう日本のスイーツと言えば老若男女が「源氏パイ」と答えるほど日本の文化に馴染んでしまっている。この源氏パイを僕はこの間買った。たっぷり買った。妻に断りもいれず、むしろ堂々と買った。妻も怒らぬほどこの日本の文化に浸透していることを物語っているが、週末になるとこの源氏パイを大量に食べているのである。ティーなどと一緒に。リビングで。ソファで。実に優雅なひと時。セレブな休日。そうした結果現時点では少し飽きているのである。つまり僕の性癖が身を貫いて表に現れてきたのである。やばい。ちなみに妻は源氏パイに目もくれない。妻は日本人なので源氏パイが嫌いなはずはないのだが、たぶんたまたま気分が乗らないのだと思ふ。僕はこれまで自身のエクスタシーに忠実に生きてきたことによる弊害については反省があるものの、忠実に生きてきたこと自体にはむしろ誇りにしたい自負がある。だから気分が乗らない人に無理矢理食わせるのは暴力的だし、昨今の表現ではパワハラや虐待に通ずる。妻は妻自身の気分に忠実に源氏パイを食って欲しいし、食うべきだと僕は考える。だから現時点で源氏パイは僕が食うべきなのである。そう認識しているが、いかんせん毎週末食い続けているせいでとても飽きてしまったことからどうも食いたい気分が沸かない。源氏パイにエクスタシーを感じないのである。いつもの僕ならこのまま腐るまで放置し、腐った後に廃棄している。しかしそれではいままでの人生と同じではないか。僕は責任というのを果たしたい。源氏パイの責任を果たせるのは僕だけなのだ。武士は殿様のために命を賭けた。殿様が阿呆でも、阿呆であることを知った上で命を賭けた。それが武士の忠義である。今まさに僕の忠義が試されている。今気づいたのだけれども、性癖と忠義は全く逆ではないか。性癖は自分に忠実、言い換えれば自己中心主義的でさえあるが、忠義は自己犠牲で成り立っているのだ。僕が今責任を果たすということは、源氏パイを守る為に僕自身を犠牲にするという意味である。源氏パイの何を守るというのか。それは源氏パイの歴史である。あの時「売れる」と思った僕の確信、否、魂こそが源氏パイへの忠義ではないか。あなたは阿呆と思うかもしらん。けれどあなたに武士を否定できるだろうか。それは日本という国の否定である。源氏パイを否定することは同様なのだ。あなたはグローバル主義に心酔するあまり、自国の愛国心を忘れてしまった。僕は違う。たかが源氏パイといえどもこれは愛国心なのだ。僕の責任はつまり国を守ることなのだ。国とは何か。それは歴史と文化だ。源氏パイという歴史が国の文化を作った。それを僕は守る。食うことで僕は守る。そして食った。飽きたけど食った。無理矢理食った。おかわりをした。もう二度と見たくないと思った。外食したいと思った。3キロ肥えた。スラックスがぴちぴちになった。起き上がるのが苦しくなった。腰痛が酷くなった。通勤できなくなった。労働を休んだ。給料が引かれた。生活が苦しくなった。涙が流れた。止まらなかった。かしこ。
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by hasumaro | 2013-10-08 14:58 | エッセイ



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